レトルトのカレーや缶詰は、保存料が入っていなくても常温で一年近くもつものがあります。冷蔵庫に入れなくてよいのに傷まないのはなぜか。答えは添加物ではなく、加熱と包装の組み合わせにあります。仕組みが分かると、「保存料不使用」という表示の意味も、開封後にどう扱えばよいかも見えてきます。
レトルト食品は法令上どう定義されているか
いわゆるレトルト食品は、食品衛生法に基づく規格基準のうえでは容器包装詰加圧加熱殺菌食品と呼ばれます。気密性のある容器包装に食品を入れて密封し、そのあとで加圧加熱殺菌したもの、という定義です。パウチや成形容器に詰めてから殺菌するという順番が要点で、中身を殺菌してから詰めるのではありません。
密封したあとで容器ごと加熱するため、殺菌が終わった時点で外から菌が入る経路がありません。ここが常温で長く保存できる理由です。
製造基準で決められていること
消費者庁が公開している「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」の規格基準を読むと、レトルト食品には加熱の条件だけでなく、使ってはいけない添加物や記録の残し方まで決められています。主な項目を表にまとめます。
| 項目 | 規格基準の内容 |
|---|---|
| 対象 | 食品を気密性のある容器包装に入れ、密封した後、加圧加熱殺菌したもの。清涼飲料水・食肉製品・鯨肉製品・魚肉ねり製品は除く(それぞれ別の基準がある) |
| 成分規格 | その食品の中で発育しうる微生物が陰性であること。容器のまま35度で14日間置いて膨張や漏れを見る恒温試験と、細菌試験で確かめる |
| 保存料・殺菌料 | 保存料または殺菌料として使う化学的合成品の添加物は使ってはならない(次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムを除く) |
| 殺菌の条件 | pH4.6超かつ水分活性0.94超のものは、中心部120度で4分間か、同等以上の効力がある方法 |
| 記録 | 殺菌は自記温度計を付けた殺菌器で行い、その記録を3年間保存する |
| 封かん | 缶詰・瓶詰以外は、熱溶融または巻締めで封をする |
出典 消費者庁「食品別の規格基準について」容器包装詰加圧加熱殺菌食品(食品、添加物等の規格基準 昭和34年厚生省告示第370号の該当部分。2026年10月4日確認)
どれくらい加熱するのか
規格基準では、加熱の条件が食品の性質によって決められています。pHが四・六を超え、かつ水分活性が〇・九四を超えるものについては、中心部の温度を百二十度で四分間加熱するか、これと同等以上の効力を持つ方法で殺菌することとされています。
この条件が設けられているのは、ボツリヌス菌の芽胞を対象にしているためです。芽胞は熱に強く、通常の加熱では生き残ることがあります。酸性が強い食品や水分が少ない食品では芽胞が増えにくいため、条件によって求められる加熱の強さが変わる、という組み立てになっています。
ここで書いているのは製造の基準であって、家庭で同じことができるという意味ではありません。家庭用の圧力鍋で百二十度四分に相当する殺菌を確実に行うのは難しく、密封した容器を扱う自家製の保存食は、条件を誤ると危険が生じます。作る場合は冷蔵や冷凍を前提にし、常温保存を狙わないほうが安全です。
缶詰・瓶詰・冷凍とどう違うか

| タイプ | 保存性のつくり方 | 保存温度 | 期限の目安 | 開封後 |
|---|---|---|---|---|
| レトルト(パウチ・成形容器) | 密封してから加圧加熱殺菌 | 常温 | 数か月〜二年程度 | その日のうちに食べきる |
| 缶詰 | 密封してから加熱殺菌。光と酸素を通さない | 常温 | 一〜三年程度 | 別容器に移して冷蔵、早めに |
| 瓶詰 | 密封してから加熱殺菌。光は通す | 常温(製品による) | 製品による | 冷蔵、早めに |
| 冷凍 | 低温で微生物の増殖を抑える | マイナス十五度以下(規格基準の保存基準) | 数か月 | 再冷凍は避ける |
| チルド(要冷蔵) | 加熱後の急速冷却と低温流通 | 十度以下など | 数日 | 表示に従う |
期限はいずれも未開封で、表示された保存方法を守った場合のものです。缶詰の期限が長いのは、光と酸素を通さない容器の性質によるところが大きく、中身の種類によっても差があります。
「保存料不使用」との関係
レトルトや缶詰に保存料が入っていないのは、加熱と密封で保存性を確保できているからです。さらに、規格基準の製造基準は、保存料や殺菌料として使う化学的合成品の添加物をレトルト食品に使うことを禁じています。企業努力で削ったというより、そもそも使えない、使う必要のない設計です。
そのため、パッケージに「保存料不使用」と書かれていても、それが他社との違いを示しているとは限りません。同じカテゴリの商品はどれも使っていない、ということがあります。消費者庁の「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」は、法令で使用が認められていない添加物について不使用と書く表示(類型3)や、使用が予期されていない添加物の不使用表示(類型8)を、注意すべき類型として挙げています。不使用表示のない商品より優れていると読み取られるおそれがあるためです。
気にすべきは保存料の有無より、調味に使われている添加物のほうです。原材料表示のスラッシュより後ろに何が並んでいるかを見てください。
開封したら別の食品だと考える
未開封で長くもつのは、外から菌が入らない状態が保たれているからです。開封した瞬間にその前提は消えます。開封後は常温保存の食品ではなく、生鮮食品と同じ扱いに切り替えるのが基本です。
- レトルトは一食分で使い切る設計が多い。残す前提で開けない
- 缶詰は開封後に缶のまま保存せず、別の容器に移して冷蔵する
- 賞味期限が長い商品ほど、開封後の期限は書かれていないことがある。書かれていない場合は早めに食べきる
- においや見た目に違和感があるときは食べない
よくある質問
Q. レトルト食品に保存料は入っていないのですか。
レトルト食品(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)は、規格基準で化学的合成品の保存料・殺菌料の使用が禁じられています。ただし調味などに使う添加物は別なので、何が入っているかは原材料表示の添加物の欄で確かめてください。保存料を使った食品では用途名を併記して表示されます。
Q. 賞味期限が過ぎたレトルトは食べられますか。
賞味期限はおいしく食べられる期限を示すもので、過ぎたら直ちに食べられなくなるという意味ではありません。ただし未開封で保存方法を守っていることが前提です。容器がふくらんでいる、へこみや錆がある、開けたときに異臭がするといった場合は食べないでください。
Q. 缶詰がふくらんでいるのはなぜですか。
内部でガスが発生している可能性があります。原因はいろいろですが、微生物が増えている場合も含まれるため、ふくらんだ缶は開けずに処分するのが安全です。
Q. 温めずにそのまま食べてよいですか。
加熱殺菌済みなので、そのまま食べられる設計の商品もあります。ただし商品ごとに前提が違うので、パッケージの表示に従ってください。加熱してくださいと書かれているものは加熱します。
Q. 家庭で瓶詰の保存食を作って常温で置けますか。
勧められません。製造の規格基準にあたる殺菌を家庭で確実に行うのは難しく、密封状態で保存すると条件によっては危険が生じます。作る場合は冷蔵か冷凍を前提にしてください。
Q. 一歳未満の子どもに気をつけることはありますか。
はちみつは乳児ボツリヌス症の原因になり得るため、一歳未満には与えないこととされています。市販のベビーフードは乳児向けにはちみつを使わない自主規格が設けられていますが、大人向けの食品を取り分けるときは原材料を確認してください。
食品ジャンル別の選び方の記事
レトルトや缶詰は加熱と密封で日持ちが決まるように、カテゴリごとに無添加表示が指す範囲も、見るべき添加物も変わります。ほかの食品ジャンルの記事もあわせてどうぞ。
まとめ
レトルトや缶詰が常温で長くもつのは、密封してから加圧加熱殺菌するという製法によるものです。規格基準では、pHが四・六を超え水分活性が〇・九四を超える食品について、中心温度百二十度で四分間の加熱かこれと同等以上の方法が求められています。保存料に頼らずに保存性を確保できる設計なので、「保存料不使用」と書かれていてもそれが差別化になっているとは限りません。見るべきは、調味に使われている添加物と、開封後の扱いです。開封したらその日のうちに、が基本になります。
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出典
- 消費者庁「食品別の規格基準について」容器包装詰加圧加熱殺菌食品 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/other/category/assets/0000094504.pdf (定義、成分規格、製造基準)
- 同 冷凍食品 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/other/category/assets/0000126767.pdf (保存基準 マイナス15度以下)
- 「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号。規格基準の策定は2024年4月から消費者庁の所管)
- 消費者庁「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」(令和4年3月30日)
規格基準の資料は2026年10月4日に確認しました。