消費者庁の資料では、イーストフードは「イーストの栄養源等の目的で使用される添加物」と定義され、塩化アンモニウムや塩化マグネシウムなど複数の物質を「イーストフード」という一括名でまとめて表示できます。食パンの袋に「イーストフード・乳化剤不使用」とあれば、この一括名の添加物を使っていないという意味です。
この記事は、消費者庁と厚生労働省が公開している情報をもとに、パンの原材料表示の読み方と、無添加をうたうパンを選ぶときの見方を整理したものです。
パンの原材料表示はどう並んでいるか
原材料は、原材料に占める重量の割合の高いものから順に書くルールです。前半を見ればその商品の骨格が分かります。食パンなら、たとえば次のような並びになります。
- 小麦粉(国内製造などの原産地表示が付く)
- 砂糖類、油脂、脱脂粉乳や乳製品
- パン酵母(イースト)、食塩
- 原材料と区切ったうえで、添加物
原材料と添加物の区切り方は、スラッシュ(/)などの記号のほか、改行や別欄もあります。区切りを入れずに続けて書くことはできません。まず見るのは、区切りがどこにあるかと、その後ろに何が並んでいるかです。なお、パン類の名称は「食パン」「菓子パン」「パン」のいずれかで書かれます。
「小麦粉(国内製造)」は小麦の産地ではない
原材料表示の先頭に「小麦粉(国内製造)」と書かれているのを見て、国産小麦のパンだと受け取る人は少なくありません。ですが、この表示が示しているのは小麦粉が作られた場所であって、小麦が育った場所ではありません。
原料原産地表示の制度は2017年9月に始まり、経過措置期間(準備期間)が2022年3月31日までとされ、2022年4月から完全実施となりました。国内で製造した加工食品は、原材料に占める重量割合がいちばん高い原材料(対象原材料)の原産地を表示します。輸入品は従来どおり原産国名の表示です。容器包装に入れずに販売する場合などは対象外です。
| 対象原材料の種類 | 書くもの | 例 |
|---|---|---|
| 生鮮食品 | その産地 | 国名など |
| 加工食品(中間加工原材料) | その製造地 | 小麦粉(国内製造) |
小麦粉のように、それ自体が加工された原材料が対象になる場合は、製造された国を「○○製造」と書くルールです。消費者庁のQ&Aは、その理由をこう説明しています。
単に国名のみを表示すると、その中間加工原材料の元となる生鮮原材料の原産地であると消費者が誤認する恐れがあることから、中間加工原材料の原産地を「○○製造」と表示することとします
つまり「製造」という二文字は、産地と取り違えられないようにするために、意図的に付けられている言葉です。消費者庁のチラシも、「国内製造」は原料の生鮮食品が国産という意味ではないと説明しています。国産小麦かどうかは、パッケージにそれを示す別の記載があるかで確認します。なお「○○加工」という書き方は認められていません。
イーストフードと乳化剤は何のために入っているか
イーストフード
消費者庁の資料での定義は、イーストの栄養源等の目的で使用される添加物です。対象には塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムなど複数の物質があり、個別の物質名ではなく「イーストフード」という一括名でまとめて表示できます。表示上は一語でも、中身は一種類とは限りません。
乳化剤
定義は、食品に乳化、分散、浸透、洗浄、起泡、消泡、離型などの目的で使用される添加物です。パンに限った定義ではなく、さまざまな食品で使われます。これも一括名で表示できる添加物のひとつです。
酵素
「酵素」も一括名で表示できる添加物で、最終食品でも失活せずに効果を持つものが対象です。イーストフードや乳化剤を使っていない商品でも、添加物の欄に「酵素」が書かれていることがあります。
使っているから品質が劣る、使っていないから優れている、という話ではありません。
「不使用」表示をどう読むか
ここが分かりにくいところです。イーストフードと乳化剤を使っていないパンでも、似た働きを持つ別の添加物や原材料が使われていることがあります。食品として扱われる原材料は添加物ではないので、区切りより前に書かれます。
消費者庁のガイドラインは、こうした場合の表示について注意すべき類型を示しています。
| 類型 | 内容 | パンで考えられる場面 |
|---|---|---|
| 類型4 | 同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示 | イーストフード不使用としつつ、添加物の酵素を使う場合など |
| 類型5 | 同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示 | ガイドラインの例に、乳化作用を持つ原材料を高度に加工して使い、乳化剤不使用と表示するケースがある |
| 類型6 | 健康・安全と関連付ける表示 | 体によい、安全であることの理由として不使用を書く場合 |
| 類型9 | 加工助剤・キャリーオーバーに関わる不使用表示 | 自社の製造工程に限る旨を書いて無添加と表示する場合も注意の対象 |
| 類型10 | 過度に強調された表示 | 容器包装のあらゆる場所に不使用表示を書く場合 |
ガイドラインは不使用表示を一律に禁止するものではありません。根拠を確認したうえで、何を使っていないのかを具体的に書くことは引き続き可能です。事業者の表示見直しの目安は2024年3月末とされていました。買う側としては、表側の大きな文字だけで判断せず、裏面の原材料表示と照らし合わせる習慣を持てば足ります。
パンにしか使えない添加物と、その厳しい条件
パンの添加物の話でときどき名前が挙がるのが臭素酸カリウムです。厚生労働省の第10版食品添加物公定書「F 使用基準」では、次のように定められています。
- 臭素酸カリウムは、パン(小麦粉を原料として使用するものに限る)以外の食品に使用してはならない
- 使用量は、臭素酸として小麦粉1kgにつき0.030g以下
- 使用した臭素酸カリウムは、最終食品の完成前に分解し、又は除去しなければならない
使ってよい食品がパンだけに限られ、しかも完成までに分解または除去することが条件になっている、という珍しい形の基準です。食品表示基準では、食品の完成前に除去される加工助剤は表示を要しないとされています。そのため臭素酸カリウムは、使われていても原材料表示に出ない場合があると考えられます。「原材料表示に書いていないのだから何も使われていない」とは言い切れない例のひとつで、気になる場合はメーカーが公開している情報を確かめることになります。
タイプ別に見たパンの選び方
| タイプ | 原材料表示の扱い | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 量販店の包装済み食パン | 食品表示基準にもとづく表示がある。添加物の記載があるものと、不使用をうたうものが並ぶ | 裏面の原材料表示と期限表示を見る |
| ベーカリーで包装せずに売るパン | 容器包装に入れない加工食品には食品表示基準が適用されない | 店頭の掲示や店への問い合わせ |
| ベーカリーがその場で包装したパン | 製造した場所で販売する特例により、原材料名などの表示が不要になる | 店への問い合わせ |
| 冷凍パンの通信販売 | 商品ページに原材料が掲載されていることが多い | 商品ページと届いた商品の表示 |
| ホームベーカリー | 自分で選んだ材料で作れる | ミックス粉を使うなら、その粉の原材料表示 |
店頭で切り売りされているパンなど、容器包装に入れずに売られるパンには食品表示基準が適用されません。製造した場所で包装して売る場合は、適用外ではなく、原材料名などの表示を省略できる特例の扱いです。この特例で表示が不要になる項目の一覧に、アレルゲンは含まれていません。原材料が気になるときは店に尋ねるのが確実です。
買ったあとの保存で気をつけること
保存方法と期限は、パッケージの表示や店の案内に従ってください。保存料を使っていないパンを選ぶ場合も、期限表示を見て買う量を食べきれる範囲にとどめるほうが結果的に無駄が出ません。
よくある質問
Q. イーストフード・乳化剤不使用のパンは体によいのですか。
不使用であることと健康や安全を結び付けて説明することはできません。体によいことや安全であることの理由として不使用を表示することは、消費者庁のガイドラインで注意すべき類型(類型6)として挙げられています。何を選ぶかは味の好みや考え方の問題です。
Q. 「イースト」と「イーストフード」は同じものですか。
違います。イースト(パン酵母)は原材料の側に書かれます。イーストフードはイーストの栄養源等の目的で使われる添加物で、添加物の側に書かれます。名前が似ているので混同されがちな部分です。
Q. 原材料が短いパンほど良いのですか。
表示の長さは品質の優劣を決めるものではありません。一括名でまとめて表示できる添加物や、表示が不要な加工助剤があるため、表示の長さと実際に使われている物質の数は一致しません。
Q. ベーカリーのパンには添加物が入っていないのですか。
そうとは限りません。容器包装に入れずに売られるパンには食品表示基準が適用されず、店で包装したパンも原材料名などの表示を省略できる特例があります。表示がないことは不使用の証明にはなりません。気になるときは店に確認してください。
Q. 全粒粉やライ麦のパンは無添加ですか。
粉の種類と添加物の有無は別の話です。全粒粉を使っていても添加物が入っている商品はありますし、その逆もあります。原材料表示で確認してください。
Q. 手作りすれば添加物を避けられますか。
自分で材料を選べるので、添加物を入れないことはできます。ただし市販のミックス粉を使う場合は、その粉に何が入っているかを確認する必要があります。
Q. 「小麦粉(国内製造)」と書いてあれば国産小麦ですか。
違います。小麦粉が国内で製造されたという意味で、原料の小麦の産地は示していません。産地と誤認されないように、制度としてあえて「製造」の語を付けることになっています。国産小麦かどうかは、パッケージにそれを示す別の記載があるかで確認してください。
Q. 原材料表示に書かれていない添加物はありますか。
あります。食品表示基準では、食品の完成前に除去される加工助剤や、キャリーオーバーは表示を要しないとされています。パンでいえば臭素酸カリウムは使用基準で「最終食品の完成前に分解し、又は除去しなければならない」と定められており、使っていても表示に出ない場合があります。表示にないことは、製造工程で一切使われていないことの証明にはなりません。
Q. イーストフード不使用なのに「酵素」と書いてあるのはなぜですか。
酵素はイーストフードとは別の一括名の添加物です。どちらを使うかは商品ごとの設計によります。ガイドラインは、不使用と書いた添加物と同じ機能や似た機能の添加物を使う場合の表示を、類型4として注意の対象にしています。
Q. 「当社製造工程で不使用」という表示はどう読めばよいですか。
その会社の工程では使っていないという意味で、原材料の製造工程まで含んだ話ではありません。ガイドラインの類型9では、原材料の製造工程で添加物が使われていないことを確認できないために、自社の製造工程に限る旨を書いて無添加と表示する例も注意の対象に挙げています。
食品ジャンル別の選び方の記事
パンでは、イーストフードや乳化剤の不使用表示が無添加の目印として使われます。食品のカテゴリごとに、無添加表示が指す範囲も確認すべき添加物も違うので、ジャンル別に見ていくと選びやすくなります。
関連記事 トランス脂肪酸とは 日本の表示ルールと「0g」の基準、WHO・FDAの動きまで整理
まとめ
イーストフードと乳化剤は、どちらも一括名でまとめて表示できる添加物です。不使用をうたうパンでも、似た働きを持つ別の添加物や原材料が使われていることがあり、消費者庁のガイドラインはその場合の表示について注意すべき類型を示しています。加工助剤のように表示に出ない添加物もあります。「小麦粉(国内製造)」は小麦の産地を示すものではありません。パンを選ぶときは、表側の大きな文字ではなく原材料表示の区切りの前と後ろを見て、食べきれる量を買う。この二つを押さえておけば、表示に振り回されずに選べます。
出典(確認日 2026年10月4日)
- 消費者庁「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」(令和4年3月30日) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_220330_25.pdf
- 消費者庁「表示を作成する際に注意すべき10類型(イラスト版)」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/food_additive/assets/food_labeling_cms204_220701_03.pdf
- 内閣府「食品表示基準」(平成27年内閣府令第10号) e-Gov法令 https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/427M60000002010
- 消費者庁「食品表示基準について」別添 添加物関係 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_260401_09.pdf
- 消費者庁「食品表示基準Q&A」第2章 加工食品 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_261001_12.pdf
- 消費者庁「食品表示基準Q&A」別添 新たな原料原産地表示制度 https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_261001_15.pdf
- 消費者庁「全ての加工食品に原料原産地が必ず表示されます!」(令和4年3月作成チラシ) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/country_of_origin/assets/food_labeling_cms202_220330_01.pdf
- 厚生労働省「第10版食品添加物公定書」F 使用基準 https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001208485.pdf