2008年(平成20年)10月1日、厚生労働省令第151号による食品衛生法施行規則の改正が官報で告示され、即日施行されました。これにより、酢酸デンプンやリン酸架橋デンプンなど化学的処理を行った加工デンプン11品目が、食品原材料から添加物の扱いに変わりました。原材料欄の「増粘剤(加工でん粉)」は、この11品目のどれかを指しています。
この記事では、加工でん粉が11品目の食品添加物であること、原材料欄でどう表示されるか、そして日本と海外でどう評価されているかを、公表されている資料にもとづいて整理します。安全か危険かを断定するものではなく、原材料欄を読むための材料としてお使いください。
実際に利用した体験ではなく、公開されている情報にもとづく整理です。健康上の判断について助言するものではありません。
加工でん粉とは 化学的な処理を加えた「添加物としてのでん粉」
でん粉は、じゃがいも、とうもろこし、タピオカ(キャッサバ)などから取り出した多糖類です。これに各種の化学物質を用いて化学的処理を行ったものが、添加物としての加工デンプンです。米国とEUでも、化学的処理を行った加工デンプンは添加物として扱われています。
ここで押さえておきたいのは、「加工」にも制度上の線引きがあることです。
| 処理の種類 | 例 | 日本での扱い |
|---|---|---|
| 化学的処理(アセチル化、ヒドロキシプロピル化、架橋、酸化など) | 酢酸デンプン、リン酸架橋デンプンなど11品目 | 食品添加物。物質名または簡略名「加工デンプン」で表示 |
| 物理的処理・酵素処理 | 酸やアルカリによる加水分解、漂白といった簡単な化学的処理も含む | 従来どおり食品として扱われ、「でん粉」と表示 |
ただし、次亜塩素酸ナトリウムで漂白したデンプンのうち、カルボキシ基が0.1%を超えるものなど一定の条件に合うものは酸化デンプン(添加物)として扱われます。「化学的なら添加物」と単純に分けられるわけではありません。いずれにしても、原材料欄に「でん粉」とあるだけの商品と「加工でん粉」とある商品とでは、制度上の区分が違います。
2008年に11品目が添加物として指定された経緯

それまで加工デンプンは、昭和54年以降、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)で安全性評価が終わったものに限って食品として扱われてきました。2008年の指定は、国際的な整合性を図るためのものです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成16年(2004年)11月26日 | 厚生労働大臣が食品安全委員会に評価を依頼 |
| 平成19年(2007年)11月28日 | 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会が、指定して差し支えないと報告 |
| 平成20年(2008年)8月21日 | 答申 |
| 平成20年(2008年)10月1日 | 省令公布・官報告示、即日施行 |
| 平成23年(2011年)3月31日 | この日までに製造・加工・輸入されたものは従前どおり食品原材料として扱える経過措置の期限 |
| 指定された11品目 |
|---|
| アセチル化アジピン酸架橋デンプン |
| アセチル化リン酸架橋デンプン |
| アセチル化酸化デンプン |
| オクテニルコハク酸デンプンナトリウム |
| 酢酸デンプン |
| 酸化デンプン |
| ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン |
| ヒドロキシプロピルデンプン |
| リン酸化デンプン |
| リン酸架橋デンプン |
| リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン |
名前に含まれる「酢酸」「リン酸」「ヒドロキシプロピル」「架橋」といった語は、でん粉にどんな化学処理を加えたかを示しています。指定時点では使用基準は設定されず、適切な製造管理のもとで、目的の効果を得るのに必要な量を超えないものとされました。現行の使用基準や成分規格の細部は、この記事の作成時点で食品添加物公定書の原文を確認できていません。
原材料欄ではどう表示されるのか
消費者庁の資料では、11品目を含む食品や添加物は原則として物質名を表示する必要があるとされています。そのうえで、各品目には「加工デンプン」という簡略名が認められています。オクテニルコハク酸デンプンナトリウムだけは、「オクテニルコハク酸デンプンNa」という簡略名も使えます。
| 使い方 | 表示の例 | 読み方 |
|---|---|---|
| 増粘剤などの用途で使う | 増粘剤(加工でん粉) | 増粘剤・安定剤・ゲル化剤・糊料は用途名を併記する |
| オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを乳化剤として使う | 乳化剤 | 11品目のうち乳化剤の一括名で表示できるのはこの品目だけ |
| 加工でん粉と、物理的・酵素的処理のでん粉を両方使う | でん粉、安定剤(酢酸デンプン) | 両方を表示する |
消費者庁の資料には、「原材料名:○○、○○、でん粉、安定剤(酢酸デンプン)、○○」という例が載っています。この例のように、「でん粉」と「加工でん粉」が同じ商品に並ぶこともあります。前者は食品、後者は添加物です。
加工デンプンを使ったミックスパウダーにも線引きがあります。パンや菓子、うどん、唐揚げ粉用など、調理を経て食品として食べるためのものは食品として扱われ、ミックスパウダーなどの製造に使うものは添加物製剤の扱いです。
表記の揺れにも注意が必要です。資料によって「加工デンプン」「加工でん粉」と書き分けられていますが、どちらも同じ11品目を指します。表示全般の読み方は原材料表示、どこから読めばいいのか迷ったときの見方でも整理しています。
どんな食品に使われるのか
加工でん粉は、増粘剤・安定剤・ゲル化剤・糊料や乳化剤として使われます。次の表は「使われることがある食品」と「原材料欄で見る場所」の一般的な目安で、公式資料で食品ごとに確かめたものではありません。すべての商品に入っているわけではありません。
| 食品の種類 | 使われる目的(一般的な説明) | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 冷凍食品・レトルト食品 | 食感や状態の安定 | 原材料名の添加物欄 |
| ソース・ドレッシング | とろみをつける | 原材料名の欄 |
| 乳製品・デザート | 食感の調整。詳しくはヨーグルト・乳製品の添加物 | 原材料名の欄 |
| スープ・カレールウなどの加工品 | とろみ付け | 原材料名の欄 |
冷凍食品の側から見た添加物の関係は無添加の冷凍食品を選ぶ 冷凍と添加物の関係、ドレッシングやマヨネーズの側からは無添加ドレッシング・マヨネーズとは?で触れています。
日本と海外の評価 食品安全委員会、JECFA、EFSA
厚生労働省の担当課による解説によると、食品安全委員会は、評価の対象となった11種類の加工デンプンが添加物として適切に使用される場合、安全性に懸念がないと考えられ、一日摂取許容量(ADI)を特定する必要はないと評価しています。海外の評価は次のとおりです。
| 機関・時期 | 内容 | 読み方 |
|---|---|---|
| 食品安全委員会(日本、2008年の指定前) | 11品目が適切に使用される場合、安全性に懸念はなく、ADIを特定する必要はない(厚生労働省の解説による) | 日本で指定された11品目についての評価 |
| JECFAと欧州SCF(過去の評価) | これらの加工でん粉に対してADIを「特定しない(not specified)」とした(EFSAの意見書での記述) | 数値のADIを定めない区分 |
| EFSA(欧州食品安全機関、2017年の再評価) | E 1404〜E 1452の12品目について、報告された使用と使用量では一般の人に安全上の懸念はなく、数値のADIは不要と結論 | ラットで体重1kg当たり1日最大31,000mgを与えてもヒトのリスク評価に関わる影響はみられず、ヒトでは単回25,000mgまで耐容。遺伝毒性はin silico解析で懸念なし |
| EFSA(同じ意見書の留意点) | 乳児・幼児向けの特別医療用途食品の2区分では、現在認められている最大使用量(20,000または50,000mg/kg)で摂る場合の安全性を十分に評価できるデータがないとした。ヒ素・鉛・水銀の規格値の見直しと、使用データの追加収集も推奨 | 「全面的に問題なし」ではなく、対象食品と条件つきの結論 |
データ不足とされた2区分は、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム(E 1450)を使う乳児用の特別医療用途食品・特殊調製乳と、E 1404・1410・1412・1413・1414・1420・1450・1451を使う乳幼児用の特別医療用途食品です。EFSAは、一般の人向けのADIの考え方は生後12週未満の乳児には当てはまらず、別に評価が必要だとしています。
摂取量の見積もりとしては、幼児がいつも同じブランドを選ぶ想定の95パーセンタイルで、E 1404〜E 1451の合計が体重1kg当たり1日最大3,053mgという値が示されています。E 1452はサプリメントを摂る人に限った値で、最大22.1mgです。いずれも評価用の見積もりで、実際の平均的な食事で毎日これだけ摂るという意味ではありません。
EFSAが評価した12品目には、日本の11品目にない「アルミニウムオクテニルコハク酸デンプン(E 1452)」も含まれます。EUと日本で対象の品目や使える食品の範囲は同じではないため、海外の結論をそのまま日本の商品に当てはめることはできません。
「無添加」の表示との関係
消費者庁は2022年3月30日に「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を公表し、食品表示基準の表示禁止事項に該当するおそれが高い表示を10類型に整理しました。何を使っていないのか分からない単なる「無添加」の表示は類型1です。表示を見直すための経過措置は2024年3月末まででした。考え方は「無添加」の表示には決まりがあるで解説しています。
加工でん粉に当てはめると、「保存料無添加」と書いてあっても、原材料欄に「増粘剤(加工でん粉)」が入っている商品はあり得ます。消費者庁の啓発資料では、「保存料無添加」と書く場合でも、保存効果を持たせるために酸化防止剤など別の添加物を使うときはその旨を記載する必要があると示されています。逆に、加工でん粉が入っていない商品は「加工でん粉不使用」と書かれていなくても存在します。パッケージの前面の言葉ではなく、原材料名の欄そのものを確認するのが基本です。添加物の役割を全体から見たいときは保存料・着色料・化学調味料、それぞれ何のために使われているのかが入口になります。
選ぶときの確認手順
- 原材料名の欄で「加工でん粉」「加工デンプン」の文字と、前に付く用途名(増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料など)を探す
- 「乳化剤」とだけある場合も、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムが含まれている可能性があることを知っておく
- 「でん粉」とだけ書かれている場合は、添加物ではなく食品扱いの原材料であることを踏まえて読む
- 避けたい理由がある場合は、どの品目かが表示から分からないことを踏まえ、必要なら容器包装の表示責任者へ問い合わせる
- 乳幼児向けの食品や、医師から食事について指示を受けている場合は、自己判断ではなく医師や管理栄養士に相談する
よくある質問
加工でん粉と片栗粉は同じものですか
制度上の区分が違います。添加物の加工でん粉は化学的処理を行った11品目で、物理的処理や酵素処理をしたでん粉は食品として「でん粉」と表示されます。片栗粉を含め、個々の商品は原材料欄で確かめてください。
加工でん粉は遺伝子組換えですか
加工でん粉という区分は、遺伝子組換えかどうかとは別の話です。原料が何かは表示だけでは分かりません。気になる場合は表示責任者に問い合わせてください。遺伝子組換えの表示制度については遺伝子組換え表示制度はどう変わったかで整理しています。
「加工でん粉」と書いてあれば11品目のどれか分かりますか
分かりません。11品目には「加工デンプン」の簡略名が認められているため、原材料欄では同じ表示になることがあります。品目を知りたい場合は、表示責任者への問い合わせが確実です。
「でん粉」と書いてあるだけなら添加物ではありませんか
その表示のでん粉は、制度上は食品(原材料)として扱われます。物理的処理や酵素処理をしたもの、酸やアルカリによる加水分解や漂白といった簡単な処理をしたものも食品の扱いです。
日本では加工でん粉の安全性は評価されていますか
厚生労働省の担当課の解説によると、食品安全委員会は、11種類の加工デンプンが添加物として適切に使用される場合、安全性に懸念がないと考えられ、ADIを特定する必要はないと評価しています。
EFSAが「懸念なし」としているなら、赤ちゃんに与えても問題ありませんか
この記事は個別の判断を示すものではありません。EFSAの意見書は、乳児・幼児向けの特別医療用途食品の2区分では十分な安全性評価のためのデータが足りないとし、生後12週未満の乳児は別に評価が必要だとも述べています。離乳食や育児用の食品については、小児科医や管理栄養士にご相談ください。ベビーフードの選び方は無添加ベビーフードとは?にまとめています。
唐揚げ粉などのミックス粉に入っている加工でん粉も添加物ですか
2008年の厚生労働省の解説では、加工デンプンを使ったミックスパウダーのうち、パンや菓子、うどん、唐揚げ粉用など調理を経て食品として食べるためのものは食品として扱ってよいとされています。中身は原材料欄で確認できます。
加工でん粉を避けるには何を見ればよいですか
原材料名の欄で「加工でん粉」「加工デンプン」と、その前の用途名を確認します。前面の「無添加」の言葉ではなく、原材料名の欄が判断材料になります。
まとめ
加工でん粉は、2008年10月1日に添加物として扱われることになった11品目の総称で、原材料欄では「増粘剤(加工でん粉)」のように用途名とあわせて表示されます。物理的処理や酵素処理、簡単な加水分解や漂白をしたでん粉は食品の扱いで、「でん粉」と表示されます。食品安全委員会は適切に使用される場合に懸念はなくADIを特定する必要はないと評価し、EFSAも報告された使用量では一般の人に懸念はないとしました。一方でEFSAは、乳児・幼児向けの特別医療用途食品にはデータ不足という留意点も示しています。品目の違いは表示から分からないので、「無添加」の言葉ではなく原材料名の欄を見る、という基本を持っておくと迷いにくくなります。
- 農畜産業振興機構「でん粉情報 加工デンプン11品目の新規指定について」(2008年11月、執筆 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課) https://alic.go.jp/joho-s/joho08_200811-02.html
- 消費者庁「加工デンプンの添加物指定について」(平成20年10月1日、PDF) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/food_additive/pdf/syokuhin85.pdf
- EFSA Journal 2017;15(10):4911「Re-evaluation of oxidised starch (E 1404) ... starch aluminium octenyl succinate (E 1452) as food additives」 https://www.ebi.ac.uk/europepmc/webservices/rest/PMC7009865/fullTextXML
- 消費者庁「表示を作成する際に注意すべき10類型」(PDF) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/food_additive/assets/food_labeling_cms204_220701_03.pdf
- 消費者庁「食品添加物表示に関するマメ知識」(PDF) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/food_additive/assets/food_labeling_cms204_260401_04.pdf
- 消費者庁「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」啓発資料(PDF) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/food_additive/assets/food_labeling_cms204_221122_01.pdf
- 消費者庁「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」(令和4年3月30日、PDF) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_220330_25.pdf